嘘ごと、愛して。

そわそわする。
待ち合わせの場所に指定された駅は地元の駅の何倍も人通りが多く、落ち着かない。
…落ち着かない理由は、他にもあるが。


この間、正義のマンションでの一件は、彼の中ではどう処理されているのだろう。

キスされて呆然とした頭で正義を見つめていると、晴人さんとお姉さんが帰ってきたのだ。
私たちの(そう呼ぶのが正しいのか知らないが)親密な空気は終わり、正義はお姉さんを避けるように自室に行ってしまった。

それから昨日まで、正義は学校を休んだ。


そして突然の電話。

緊張するなという方がおかしい。



待ち合わせ場所を決めて電話を切った後、しまったと思った。
今の私は、"志真"仕様で、Tシャツに短パンと、ロングカーディガンを羽織っているだけだ。

真凛のパンツスタイルは見たことなく、いつもフリフリのスカートだった。


着替えた方がいい???
裕貴は気兼ねしない相手だが、正義が見たら何を思うだろう。私服のイメージが違うと、怪訝な顔をするだろうか。


「よっ、待たせてごめん」


考え事をしていた背後から正義に肩を叩かれた。

風邪は完治したようで威勢良く現れた彼と向き合う。


「い、今、来たところだから…」

「あ、それ!デートっぽい。というか俺の台詞だよな」

そこに立っていた彼は、あの日、マンションで会った彼とは同一人物ではないみたいに、いつも通りの笑顔を浮かべていた。


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