嘘ごと、愛して。
リビングに向かえば、カウンターキッチンから母の鼻歌が聞こえた。
「裕貴、」
ソファーに座り母の淹れた珈琲を飲む裕貴を呼ぶ。
「急にごめんね。うちの母の誕生日会のお誘いに」
「あら、もちろん参加するわよ。お父さんにも声を掛けておくから」
母が即答しながら、
火を消して私の横に座った。
両親は裕貴がお気に入りで、いずれ真凛と結婚させたいと目論んでいることは知っている。
あからさますぎて、裕貴も気付いているだろうけど。
「ありがとうございます。できれば真凛にもと思ってるんですけど」
「そうね、話してみるわ」
母は神妙な顔で頷く。
「まだ相変わらず?」
裕貴が私を見て聞いてきているというのに、母がまた口を挟んできた。
「ええ、私たちが仕事に行っている間も出掛けてないみたいで。頑張り屋さんだから、少し休憩したいだけだと思うんだけど」
「無理しすぎてしまったのでしょうね」
「ええ、そうよ。あの子は親から見ても良い子でね。もう少し休ませてあげたいのよ」
母の言葉に裕貴が頷く。
「…お母さん、もういいから。」
「はいはい」
名残惜しそうに裕貴に会釈して母はキッチンに戻った。
「心配だよ」
「うん。真凛の気持ちが分かれば話は早いんだけど。聞き出せなくて」
「真凛もだけど、志真のことが心配」
「え?私?」
「いくら妹とは言え、他人の人生を歩む間に、君の時間は止まってる。志真もやりたいこと、あるでしょ」