初恋とチョコレートと花束と。

そんな話をしながら時計を見上げると、もうすぐ朝読書の時間。
つられて時計を見たアリスもそのことに気づいたけれど「ありゃ~、これは早く行かなきゃ女神先生に怒られちゃうね」なんてのんきに言ってる。

小村先生は、優しいけれど怒ると怖い。
普段騒いでいる男子達も、小村先生だけは怒らせないようにするくらい。

だから私のクラスは、授業中はとっても静か。


・・・って、こんな事をしてる場合じゃなくて。
「急ごう、アリス。チャイムが鳴る前に教室についてなきゃ怒られちゃう」

そう言いながら、アリスの手と交換ノートを持って早歩きを始める。

が。



キーンコーンカーンコーン


・・・あ。

「ダメ・・・だったね」
そう言ったアリスだけれど、言葉と表情が全然合ってない。

「まぁ、しょうがないよ。時間もチャイムギリギリだったし。それよりいいの?このままだと他の先生にも見つかってさらに怒られちゃうけれど」


私がここまで言うのには、ちゃんと理由がある。

友達になった頃のアリスは今よりも元気で、よく男子達に混ざって遊ぶ子だった。
授業中に騒いだりはしてなかったけれど、遅刻とか、あとは宿題を忘れてきたことも結構あって、先生達の中では問題児だったみたい。

それからしばらくして、先生との個人面談でアリスの学校生活を知ったおじいちゃんが「次に何か問題を起こしたら、何を言おうと全寮制の学校に転校させる」と言ったらしい。


――まぁ、今の話は全部家にやって来たアリスのおじいちゃんから聞いたんだけれど。それからのアリスは、遅刻も宿題を忘れたことも0。
私から見ても、かなり頑張っていると思う。

「綾、またあとでね」
そう言って教室に入ろうとするアリスに手を振ったあと、私も自分の教室のドアを開けた。


「・・・あ、あれ?」

みんな静かに読書してるんだろうなと思っていたら、小村先生がまだ来てないからか数人の男子が騒いでいた。

まぁ、自分の席で本を読んでる人がほとんどなんだけれど。


私も本を読もうと、自分の席に座ったとき。
隣から「珍しいね。山下さんが遅れてくるの」と声が聞こえてきた。

「うん、ちょっと色々話しこんじゃって。矢川君は今日も教科書を読んでいるの?」と言ったけれど、矢川君からの返事はない。

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