初恋とチョコレートと花束と。
どうしてだろうと思ったら、その答えはすぐに分かった。
前側のドアが開いてて、そこに小村先生の姿があったから。
騒いでいた男子達の方を見ると、皆固まってる。
先生はにっこりと笑って中に入ってきたあと、黒板に大きく『今立っている男子達は廊下に出ること』と書いて教室を出ていった。
先生の後ろをぞろぞろとついてった男子達を見送った矢川君は静かに「・・・そういうこと」と呟く。
・・・先生は多分、読書してる人のじゃまをしないように何も話さなかったんだろうけれど、思いっきり逆効果だったみたいだよ。
だってほら、静かに読書をしていた人達まで何があったのって騒いでるし。
―――しばらくして、教室に来たのは副校長先生。
副校長先生に教えてもらうことがあるんだ、と思ったけれど、もっと驚いたのはわかりやすいって事。
内容は私の苦手な算数と理科。
だけれどとても丁寧に教えてもらって、久しぶりに算数が楽しいって思えた。
・・・小村先生が教室に戻って来たのは、2時間目と3時間目の間にある20分の休み時間。
アリスと中庭に行こうと階段を降りていると、階段を上ってきていた先生とすれちがった。
一緒に出て行った男子達がいないってことは、もう開放されて校庭で遊んでるのかな?
そんな事をぼんやりと考えてたら、突然「ちょ、綾!ストップストーップ!!」といきなりアリスに腕を引かれた。
え?と思って顔を上げると、見えたのは下の階の廊下と教室。
校庭で生徒達がわいわい騒いでる声が聞こえてくる。
・・・なんか、おかしい。
床の上にいる感じがしない気がする。
不思議に思いながら自分の足元を見ると、階段から落ちるか落ちないかギリギリのラインにいて。
・・・ううん。アリスが止めてくれなかったら私、ここから一直線に落ちてたと思う。
私は一歩下がってから振り向いて「アリス・・・ありがとう!」とせいいっぱいの笑顔でお礼を言った。
アリスが大きな声を出したからか、階段にいた他の生徒や近くにいた先生まで集まってきてる。
――その中に、矢川くんの姿を見つけた。
集まっていた他の生徒達の後ろに立って、何があったんだろうと言いたそうに。
ただ、それも少しの間だけ。
去っていく人達にまぎれて、すぐにわからなくなった。