初恋とチョコレートと花束と。
自分の部屋から持ってきた宿題をダイニングテーブルでやってると、電話の音が聞こえてきた。
「綾、ちょっと出てくれない?今揚げ物やってる途中だから手離せなくて・・・」

その言葉にうなずくと、キッチンカウンターに置いてある電話の子機を手に取った。

「はい、もしもし。山下です」

「・・・あ、もしもし、絵里花?美由紀(ミユキ)です」
お姉ちゃんの名前を言うって事は多分、高校の友達とかかな。

「あ、えっと、お姉ちゃんにかわりますっ」
保留のボタンを押してから、揚げ物が終わったタイミングでお姉ちゃんに差し出す。
私はそのままキッチンをうろうろしていたのだけれど、分かったのは今日のおかずが大好きなエビフライってことだけ。


お姉ちゃんは自分の部屋に行ったみたいで、ダイニングテーブルにエプロンが置いてあった。

私も部屋に戻ろうかな。リビングとか人がいる部屋よりも、自分の部屋にある机で宿題をやった方が集中できる気がするし。


階段を上ってる途中、お姉ちゃんが部屋のドアを開けたのが見えた気がした。
けれど、2階に上がるとドアは全部きっちりと閉まってて、開く感じはしない。


・・・気のせいだった、のかな?


私は自分の部屋に入ると、そっとドアを閉じた。

それから電気のスイッチを押して、テーブルの上に持ってきたものを置く。
何も変わらない、いつもと同じ事の繰り返し。


それなのになんでだろう。
私の心の中には黒いもやみたいなものが広がっていた。
いつからなのかわからないし、どうしてなったのかもわからない。

気がついた時には、そう感じてた。

私は何もしてないのに、私のせいにされて怒られた後のような気分にちょっと似てるかも。


――宿題で出された算数ドリルと漢字のプリントを終わらせてひと休みしてると、部屋の外からパタンとドアの音が聞こえてきた。

・・・今の音を出したのは誰?

電話が終わったお姉ちゃん?それとも仕事から帰ってきたお父さん?


お姉ちゃんの部屋は階段に一番近いから音が聞き分けづらくて、2階と1階のどっちから聞こえてきたのかいつも迷うんだ。

どうすればいいのかわからなくて椅子に座ったままじっとしてたら、小さな音だったけれど廊下からスリッパの音が聞こえた。

ということは、さっきのドアの音はお姉ちゃんが部屋から出る時の音だったんだ。

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