フェイス
あたしは裸のままベッドを下りた。


すぐにここから出よう。


そう思っているのに、なかなか足が動かない。


まだカナタ先輩に期待している自分がいる。


『冗談だよ』と言って引き止めてくれるのを待っている。


けれど、スマホに夢中のカナタ先輩は、着替えをしているあたしを一度も見ようとはしなかった。


……それが答えなんだ。


惨めで情けなくて、この顔以外のすべてを失ってしまった。


ナナでいればまた誰かが声をかけてくれるかもしれない。


けれどそれはカナタ先輩と同じで、ナナの顔だけに近づいてくる人かもしれない。


本当の愛情なんて、ここには存在していない。
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