色眼鏡
フサエさんは、その事を『選ばれた』と、表現したのかもしれない。


「『いずれ思い出す』の意味もよくわからないよね」


夏生が難しそうな顔をしてそう言った。


「そうだよね。なにか忘れてるっけ?」


そう呟いてなにかを思い出そうとするけれど、何も思い出せない。


あの不思議なお店についても聞きたかったけれど、もっと回数を重ねてゆっくり話せるようにならないと無理みたいだ。


「でもさ、この眼鏡が嫌なら使わなかったらいいんだよ」


夏生が不意にそう言って来た。


「え?」


「だって、お婆ちゃんもずっと使ってこなかったんだよ?」


「そうかもしれないけど……代用品はないって言ってたよね。現に、注文してたコンタクトがダメになっちゃたしさ」


「ただの偶然かもしれないでしょ? 他の眼鏡屋に行ってみようよ」


夏生にそう言われ、あたしは曖昧に頷いたのだった。
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