色眼鏡
「そういえば、フサエさんは眼鏡に選ばれたって言ってたんです。何か心当たりはないですか?」


そう聞くと、安田さんは当時の事を思い出し始めた。


「人の本心を知りたいと願っていたかもしれない」


その言葉にあたしは目を見開いた。


「1年前、俺は丁度職場を辞めよか悩んでいた時だったんだ。上司との関係が悪くて、このままこの職場でやって行くのは難しいと思ってね。


だけどある日、同期と飲みに行ったときにその上司が俺の事を一番気にかけてるって言って来たんだ。驚いたよ。あれだけ毎日怒鳴って来る上司が俺の事を気にかけてるなんて、到底思えなかった」


安田さんはそう言って、オレンジジュースをひと口飲んだ。


「最初は同僚の勘違いだと思ってた。でも、上司の事をよく観察してみると、他の同僚たちにはあまり口出ししていないのがわかったんだ。自由にやらせてる感じじゃなくて、期待してないって感じだった」


「そうなんですか」


「あぁ。その時にこの人の本心が知りたいと思った」
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