色眼鏡
☆☆☆

老人ホームの中庭のベンチに座り、あたしは夏生が出て来るのを待っていた。


フサエさんも安田さんも、眼鏡を手に入れる前の境遇がよく似ていた。


誰かの本心を知りたい。


そう願っていたのだ。


でも、あたしは……。


考えてもわからなかった。


誰かの本心が知りたいと思った事くらい、きっとあるハズだ。


だけどそれはとても小さなもので、2人に比べれば取るに足らないものだ。


それなのに、どうして眼鏡を手に入れることができたのか……。


考えていると、途端に頭が痛くなって来た。


眉間にシワが寄り、こめかみに指を当てる。


ドクンドクンと脈打つような重たい痛み。
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