色眼鏡
痛み
気が付くとあたしは病院の個室にいた。


なにか夢を見ていた気がするけれど、内容は全く思い出せない。


「里菜、大丈夫?」


焦った夏生の声が聞こえて来た。


少し頭を動かしてみると、またズキンッと鋭い痛みが走った。


「無理しない方がいいよ」


「あたし……なんで?」


「倒れたんだよ」


そう言われて、あたしは老人ホームの中庭で夏生を待っていたことを思い出した。


何かを思い出そうとして、激しい頭痛に襲われたのだ。


「里菜!」


お母さんの声がしてあたしは視線をめぐらせた。


今到着したのか息を切らしたお母さんが入り口に立っているのが見えた。
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