沈黙する記憶
杏は妊娠していたから、やっぱり自転車は使わなかったんだ。


だけど郊外まで歩いて出ると言うのは余計に辛いだろう。


だとしたら、杏の移動手段は……タクシーだ。


あたしは裕斗と目を見交わせた。


裕斗もあたしと同じ考えなのか、スマホで何か確認している。


「夏男、あたしたちそろそろ行くね」


「ん、あぁ。わざわざ来てくれてありがとう」


本当な夏男や杏の両親にも考えている事を伝えた方がいいとわかっていた。


でも、杏が妊娠していると言う事を知らない人たちに、更に混乱を与えるだけだと言う事もわかっていた。


あたしたちは足早に警察署を出て近くの公園に向かった。


「あれは間違いなく杏だった」


由花が厳しい表情で言う。


あたしはその言葉に頷いた。


「だけど問題はKマートってところにあるな。あんであんな遠くに行ったんだ?」


克矢が首を傾げながらそう言う。


だけど、その疑問はもうほとんど晴れていた。
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