沈黙する記憶
もうおろせないとわかれば、僕ならきっと結婚してくれる。


そんな気持ちで今まで黙っていたのかもしれない。


「最悪だ。本当に最悪だ」


僕は更に悪態ついた。


体は疲れ果ててクタクタなのに、作業を投げ出すこともできない。


それもこれも、杏が今まで僕に黙っていたからだ。


「ちょっと綺麗だからって、調子に乗りやがって」


愚痴る勢いに任せてスコップを深く付き刺した時、何かの手ごたえを感じて僕はスコップを引き抜いた。


「なんだ?」


その場に膝をつき、穴の中を覗き込む。


周囲が暗いので穴の中は真っ暗にしか見えない。


僕はスマホの明かりをつけて、穴を照らし出した。
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