沈黙する記憶
☆☆☆

その夜。


久しぶりにゆっくり眠ることができた。


日ごろの疲れが一気に押し寄せてきて海に沈むように眠気に引き込まれていく。


そんな中、夢を見ていた。


杏とあたしの2人が、いつもの教室で何か会話をしている。


それはとても楽しい会話でどれだけ話をしても尽きる事はなかった。


しかし、日はどんどん暮れていく。


オレンジ色だった空が暗く染まり、まだまだ話し足りないのに帰る時間を知らせていた。


「そろそろ帰ろうか」


あたしが鞄を持って立ち上がる。


しかし杏は机に座ったまま、ほほ笑んでいる。


「杏? 帰らないの?」


「あたしは、ここにいるから大丈夫」


杏はそう言い、自分のお腹をさすった。


みると、杏のお腹は大きく膨らんでいる。


「杏、そのお腹どうしたの!?」


「子供ができたの」


穏やかな口調で杏は言った。
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