沈黙する記憶
「杏がいなくなった日、お前は何をしてた?」


裕斗が質問する。


夏男はため息を吐き出して、天井を見上げた。


「あの日は一日家にいた」


「なにをしてた?」


「テレビを見てた」


「なんのテレビだ?」


「ニュース番組とか……確か、動物園の動物が逃げ出したとか、何とか」


夏男がボソボソと聞き取れるギリギリの声で答える。


「そのニュースなら、翌日もやってたよ」


そう言ったのは由花だった。


「そうだね」


さやが頷く。


「なにか、その当日にしかやっていなかった番組を見ていないのか?」


裕斗が聞くと、夏男は困ったように眉を寄せた。
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