沈黙する記憶
夏男の肩に触れた瞬間、夏男があたしを見た。


血走った眼でジッと見つめられ、あたしは何を言っていいのかわからなくなってしまった。


「杏……」


「え?」


あたしは目をパチクリさせる。


「なんで、お前は……」


夏男の手があたしの肩を掴む。


克矢よりも強い力で、夏男の指がギリギリと食い込んでくるのがわかった。


「夏男……痛いよ!」


そう言い、咄嗟に夏男の頬をはたいた。


次の瞬間、夏男は糸がプッツリと切れたようにその場に横倒しになり、気を失ったのだった。
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