沈黙する記憶
だけどあたしは今日の夏男の様子を思い出していた。


時々見せた苦しそうな表情。


杏の話題になった時に必ずあの表情を浮かべていた。


「お願い、言い訳はあたしが考えるから、みんなも制服で来てほしい」


あたしが杏の制服を着て、杏のネームを胸に付ける。


それだけで夏男の反応はまた変化する気がするんだ。


「そこまで言うなら千奈に任せよう。だけど、杏の制服を借りれるかどうかが問題だぞ」


裕斗が真剣な表情でそう言った。


「わかってる……」


あたしは杏の服を見下ろしてそう答えた。


今回は事件になんの関係もない私服だったから、杏のお母さんが貸してくれただけだ。


だけど、制服となると話は違う。


理由も深く問い詰められるだろうし、貸してもらえないかもしれない。


「一刻でも早く杏の場所を突き止めたいの!」


その思いだけで、あたしは決心したのだった。
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