沈黙する記憶
☆☆☆

あたしと夏男が並んで先頭を歩き、他のメンバーがその後ろからついて来ていた。


なるべくゆっくりと学校までの道のりを歩いて行く。


本気なのか、それともあたしたちを騙そうとしているのか、夏男はあたしを『杏』と呼び、そして嬉しそうにほほ笑んだ。


「ねぇ、夏男。今日のテスト大変そうだね」


あたしは少しかわいた唇でそう言った。


「ん? あぁ、夏休み前のテストだろ?」


夏男の返事に、あたしは一瞬後ろを振り向いた。


裕斗が「その調子だ」と、口パクで言うのが見えた。


夏男の頭は混乱し、夏休み前のテスト期間まで記憶が遡っているようだ。


「最近体調が悪くて……だからテストも心配だなぁ」


この時すでに杏は妊娠していた。


それを踏まえて言ってみると、夏男は心配そうにあたしの顔を覗き込んできた。
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