沈黙する記憶
とっさに夏男から顔をそらせてしまう。


「体調不良、まだ続いてるのか?」


夏男の言葉にあたしは目を見開いた。


あたしは杏から『体調が悪い』という話は聞いたことがなかった。


でも、夏男は杏から体調不良だという事を聞いていた……。


やっぱり杏はこの時すでに妊娠していたのだ。


そして夏男に話をしようとしていた……。


「そういえば、昨日の放課後言いたかったことってなに?」


夏男にそう聞かれ、あたしは言葉に詰まってしまった。


昨日の放課後?


何の事だろう?


あたしは必死で記憶を巻き戻す。


テスト期間中、杏は夏男を放課後呼び出した?


一体、いつ?


ずっと一緒にいるつもりでも、やはりあたしの知らない事も沢山あるみたいだ。


「別に、なんでもないよ」


下手な事を言えばボロが出る。


あたしは誤魔化すしかできなかった。
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