沈黙する記憶
「なんでもなくはないだろ? すごく真剣な顔してたじゃないか」


「そ、それは……」


食い下がって来る夏男にあたしの頭の中は汗が噴き出していた。


どうしよう。


なんて答えればいいんだろう?


「それに、少し泣いてたよな?」


夏男の言葉に、あたしは思考回路が停止した。


「あたしが……泣いてた……?」


「あぁ。何か、辛い事でもあったんじゃないのか?」


夏男はあたしの肩を抱きしめる。


あたしの前で涙を見せたことがない杏。


だけど夏男の前ではちゃんと弱さを見せていたのだ。


そのことに少しだけ寂しさを感じる。


「夏男、杏、ちょっとその公園によって行こうぜ」


克矢が後ろからそう声をかけてきて、あたしと夏男は立ち止まった。


「公園?」


「あぁ。登校時間までまだ時間がある。ゆっくり話せる時間はある」


裕斗がそう言い、公園へと入って行く。
< 173 / 229 >

この作品をシェア

pagetop