沈黙する記憶
この調子なら、夏男は次々と記憶を取り戻して行くだろう。


そして忘れていた記憶が戻った時何を語るのか……それを聞く覚悟が必要だと言う事だ。


あたしはなにもわかっていない様子の夏男を見た。


このまま記憶を取り戻しても夏男は大丈夫なのだろうか?


消してしまうくらいの記憶が戻った時、夏男はどうなるのんだろうか?


「裕斗、もう少し時間をかけた方がいいかもしれないよ?」


あたしがそう言うと、裕斗は「今更何を言ってるんだよ」と、怒りを込めた口調で聞いて来た。


「だって、夏男だって心の準備があると思うし……」


「その心の準備はいつになったらできるんだ? 精神科に通わせて何年も何十年もかけて記憶を取り戻させるつもりか? 記憶が戻ればまだいい。もしかしたら、一生戻らないかもしれないんだぞ?」


まくしたてるような裕斗の言葉にあたしは涙が出そうになった。
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