沈黙する記憶
ただでさえ自分を見失った状態の夏男に、更に追い討ちをかける事はできない。


だけど、裕斗の言っている事も正しかった。


強引だと思える手段だって使わなければ、夏男の記憶はずっと戻らないのかもしれないのだ。


そうなれば、杏が見つかる可能性もとても低くなっていく。


夏男を優先させるか、杏を優先させるか……。


そんなの決める事ができなくて、あたしは黙り込んでしまった。


自分の考え方では杏は救えないのかもしれない。


そう思った時だった。


「明日、杏がいなくなった時と似たような服装で来れるか?」


裕斗がそう聞いてきて、あたしは顔を上げた。


杏がいなくなった時の服そうな白いバラ柄のワンピースだ。


バラ柄のワンピースは持っていないけれど、花柄の白いワンピースなら持っている。


「似たような服ならあるけど……」
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