沈黙する記憶
計画
翌日。


あたしはぼんやりと鏡の前に立っていた。


裕斗に言われた通り、花柄のワンピースを着ている。


昨日の夏男を思い出すと、また夏男を騙さなければいけないのだと言う気持ちが胸を付き刺した。


夏男は日に日にやつれていて、あたしと杏を見分ける力さえなくなっている。


そんな夏男にあたしは追い討ちをかけているのだ。


記憶を取り戻したとして、それが杏の最悪の結末を意味していたとしたら、どうするのだろう?


例えば、杏がすでにこの世にいないとか……。


そこまで考えて、あたしは強く首を振った。
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