沈黙する記憶
夏男の記憶を、杏が失踪した当日まで戻すため自然な演技が必要だった。


しかし心臓はバクバクと大きく跳ね、冷や汗が背中を流れていった。


「何って、今までどこにいたんだよ!」


夏男はそう言い、あたしを抱きしめて来る。


「ど、どこって……ずっと一緒にいたでしょ? 今日から夏休みなんだから、ずっと学校で一緒だったじゃん」


必死に笑顔を作り、夏男の体を両手で押し返した。


「ずっと一緒に……?」


夏男が怪訝そうな表情を浮かべるが、次の瞬間こめかみを押さえて顔をしかめた。


「な、夏男? どうしたの?」
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