沈黙する記憶
~千奈サイド~

夏男がマネキンの首を絞め、押し倒した瞬間あたしは咄嗟にその場からベッドの隅へと逃げていた。


マネキンの後ろに隠れて声だけ出していたのだけれど、こんなにうまく行くとは思わなかった。


あたしと、克矢はじっと夏男の行動を見ていた。


夏男はマネキンをバラバラに切断し、そして黒いナイロン袋に詰めていく。


その間、ずっと夏男は呟いていた。


「僕の人生だ。僕の人生はこんな所じゃ終わらないんだ」


その執念ともいえる呟きに、あたしは背筋が冷たくなるのを感じていた。


杏がいなくなったあの日も、夏男は同じことをしたのだろうか?


今すぐ出て行って夏男を問い詰めたい気持ちを、グッと押し殺す。


もし、万が一、同じ事をしたのだとしたら……ゴミ袋に詰められた杏がどこにいるのか、探す必要があった。


だからここで夏男のリプレイを止めさせるわけにはいかない。


あたしは下唇をかみしめて、夏男の様子を見ていたのだった……。
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