沈黙する記憶
「なんで出ないの……」


20回ほど鳴らしても電話を取る気配はなく、あたしは諦めて電話を切った。


そして続けざまに夏男に電話を入れる。


杏とは違い明るい音楽が耳元に聞こえてきて少しだけ苛立ちを覚えた。


その時だった、音楽がサビに入った時夏男が電話に出たのだ。


「もしもし!?」


あたしは夏男の声を待たずにそう言った。


『もしもし? どうしたんだよ、そんなに焦った声で』


夏男の、いつもと変わらない声が聞こえてきてあたしは一瞬戸惑った。


杏から妊娠したと聞かされているのだから、もっと焦った声が聞こえて来ると思っていたのだ。
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