沈黙する記憶
夏男の声は困っている。


本当に杏には会ってないんだろうか?


「どういう事? 杏に電話しても出ないんだけど、夏男何か知らないの?」


『電話に出ない? 僕はなにも知らないけど……』


「わかった。あたし杏の家に連絡してみる」


『あ、あぁ。じゃぁ僕は杏のスマホに電話を入れてみるよ』


杏がいなくなった。


電話を切った瞬間襲い掛かって来る不安にあたしは唾を飲み込んだ。


杏は夏男に会っていない。


会う約束すらしていないということは、杏は夏男に連絡も入れていないということだ。


あたしは杏の家に電話をかけながらも《千奈、あたし妊娠した》というメールが頭から離れなかったのだった……。

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