沈黙する記憶
だけど……。


「昨日、杏の両親は警察に捜索届を出してるの。そこまでしていると言う事は、もう他の友人たちに連絡を入れてるかもしれない」


あたしはそう言った。


杏の部屋を探せばクラスメートのアドレスくらいは出てくるはずだ。


昨日の夜、杏のお父さんが合流するまでの間に電話連絡くらいできたと思う。


「そっか。そうかもしれないな。でも、そうなると余計に杏の行方はわからなくなるな……」


夏男はそう言い、頭を抱えた。


友人の家にも、よく行く場所にも杏はいない。


この街にはすでにいないんじゃないか?


そんな風に感じられる。


「ねぇ夏男、昨日は何してたの?」


「昨日? 杏を探してたって言ったじゃないか」


「あたしが夏男に連絡を入れる前だよ」


そう言うと、夏男は不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。


「家でテレビを見てたけど?」


「夏休みなのに、なんの予定もなかったの?」


そう聞くと、夏男は少し嫌そうな表情になり、「悪いかよ」と、口を尖らせた。


「悪いとは言ってないけど、何の予定もなくて1人でテレビ?」


「そうだよ」


「テレビは何を見てたの?」
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