沈黙する記憶
心なしか昔よりふくよかになっている気がする。


それもそのはず、杏はこう言ったんだ。


『あたし、子供ができたみたい』


そうだった。


たしか、杏はそう言っていた。


なぜだ……?


僕は頭の中が沸騰するのを感じていた。


なでこうなってしまうまで妊娠を黙っていたんだ?


何か、その理由についても話していた気がする。


でも思い出せなかった。


杏は故意に今まで僕に言わなかったんだ。


子供を産みたいがために、ずっと黙っていたんだ。


僕の中で、杏が妊娠を黙っていた理由はそれしかなかった。


杏は子供が産みたいのだ。


だから、おろせる時期を過ぎてから僕に事実を伝えたんだ……。
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