沈黙する記憶
「これ、本当なのか?」


「……たぶん。こんな冗談を言ってくるような子じゃないでしょ、杏って」


「確かに、そうだよな……」


裕斗はそう言い、メール画面に視線を落とした。


短い文章を目に焼き付けるようにジッと見つめている。


「このメールの内容が本当だとすれば、夏男は嘘をついていると言う事になるのか」


「そう。夏男は杏と会っているっていう事になる。でも、夏男は嘘をついているようには見えない」


あたしの言葉に裕斗は大きく頷いた。


今日の夏男の行動を見ていても、誰よりも必死に杏を探していた。


「夏男はきっと本当の事言っているんじゃないかな? だけど杏も嘘はついていない」


「それって、どういう事?」


「杏は夏男に会う約束を取り付ける前に、失踪してしまった。どう考えたらどうかな?」


裕斗の言葉にあたしは目を見開いた。


杏は夏男に連絡を入れる前にいなくなっている?


だとすれば、あたしにメールを送った直後ということだ。
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