沈黙する記憶
翌日。


あたしは朝起きてスマホを確認した。


杏からの連絡はない。


こちらから杏のスマホに電話を入れてみたけれど、やはり電源は入っていないようだった。


ベッドの上に座り、ぼんやりと天井を見上げる。


楽しい夏休みを過ごしているはずが、どうしてこんな事になってしまったんだろう。


杏は一体どこへいったの?


そう考えると、自然と涙が浮かんできていた。


杏がいないと言う事で誰もかれもが怪しく見える。


夏男も怪しいし、裕斗も怪しい。


夏男の両親でさえ、怪しく感じる。


この中に杏の行方不明に関係している人物がいるのかどうかも、わからない。


あたしの頭の中は混乱し、まともに思考回路が働かない状態だった。


ベッドの座ったまま動けずにいると、スマホがメールを受信した。


それは杏のお母さんからのメールで、あたしは飛びつくようにしてスマホに手を伸ばす。


何かあった時のためにと、連絡先を交換しておいたのだ。


杏が見つかったという知らせなら飛び上がるほど嬉しかったのだけれど、それは違った。
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