沈黙する記憶
「まさか杏、わざと大きいサイズのワンピースを買っていた……?」


普段着ないような服を買い始めると周囲に妊娠がバレてしまう。


だから杏はわざわざそんな服を選んで買っていたんじゃないだろうか?


だけど妊娠が体型に現れ始めるのは時間が経過してからだ。


杏はそんな事一言も……そこまで考えて、あたしの思考回路は止まってしまった。


体中から嫌な汗がふき出すのがわかる。


杏は妊娠してどこくらい経過していたの?


その疑問が繰り返し頭の中で回り始める。


あたしはてっきり妊娠して3か月くらいなものだと思っていた。


妊娠に気がつき、そしてすぐ夏男に連絡を取ろうとした。


そう、思い込んでいた。


だけど、もし杏のお腹がすでに膨らみ始めていたとしたら……?


その膨らみを隠すために大きいワンピースを買っていたのだとしたら?


考えれば考えるほど、呼吸が苦しくなっていく。


杏があのワンピースを着ていたのは夏休み前からだった。


その時すでに、杏のお腹が膨らんでいたとすれば……。


杏は、中絶できる時期を過ぎていることになる。
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