沈黙する記憶
僕は杏の体を黒いナイロン袋に詰め込んで、買ったばかりの車のトランクに乗せた。


中古車だけど、頑張ってバイトをして買った初めての車だった。


この車の助手席に杏を乗せてデートに行くのが、僕の夢だった。


ホテルの駐車場から出ると、夕日の眩しさに目を細めた。


どうやら夜になるまではまだまだ時間があるようだ。


僕はハンドルを握る手の汗をぬぐった。


今は夏休み中だ。


少し遅く家に帰っても怒られたりはしない。


課題もしっかりと進めているし、夏休み中のアルバイトもちゃんと出勤している。


僕はとても真面目な人間なんだ。


みんなそう言ってくる。


『少しは遊びなさいよ』とか。


だから僕のやることはきっと間違えていないんだ。


きっと、みんな理解してくれるはずなんだ……。
< 9 / 229 >

この作品をシェア

pagetop