Orangette
02
和人の袖を引っ張って、資料室の中に連れ込み、チョコレートが入った袋を手渡す。
ここなら他の女性社員が見ていないので、変なやっかみは受けずに済むだろう。
「これ……」
消え入りそうな声が出た。
平凡な自分が、こんな煌びやかな男の人にまさか手作りを渡す日が来るとは。
和人は、静かに箱を開けると紗良の作ったオランジェットを一つ口に含んだ。
「これ、本当に手作り?」
「お口に合わないですか……?」
「甘苦い」
「そうですか………」
「食ってみる?」
え、何でですか?と答えるより先に、口を塞がれていた。
リップ音が、資料室の中に響き渡る。
初めてのキスはチョコレートとオレンジの香りがした。
「有馬さ……」
「俺のこと、好き?」
色っぽく耳元で囁かれ、腰が砕けそうな紗良を和人は意地悪く微笑んで抱きとめた。
「……す、好きです」
再びキスが落とされる。
深いキスが続いていくうちに、何で有馬さんはチョコレートを持っていなかったのかとか、どうして手作りを欲しがったのだろうとか、気にしていた全てがどうでもよくなってきた。
なんて、苦くて甘い。
Fin