浮気の定理
洗面所の大きな鏡を見つめる。



私は飯島さんを好きになってしまった。



手を洗って、口をゆすぎながら、そう思う。



綺麗だとか可愛いだとか、私の欲しかった言葉もたくさんくれた。



濡れた唇を手の甲で拭いながら、飯島さんとのことを思い出す。



何年かぶりに触れた他人の唇の温度を……



柔らかくて安心できる彼のキスを……



そっとためらいがちに割り入れられた舌の感触を……



体が震えた。



キスのない体だけの夫との行為は苦痛でしかなかったのに。



彼とのキスは、もうそれだけで私に潤いを与えてくれた。
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