浮気の定理
「おいしい」



そう思わず漏らせば、彼はまた最上の笑みを浮かべて恐れ入りますと答える。



彼を待つ間に交わす、このなんでもない会話が、私はなんとなく気に入っていた。



「今日は2時間くらい待つんだけど、大丈夫?」



私よりは歳上のそのバーテンダーは、かまいませんよ?と優しく言ってくれた。



ここで待ち合わせるようになってから、もう半年くらい経つ。



その様子をずっと見てきたこの人に、私はどんな風に見られてるんだろうと思った。



けれど彼は自分の仕事を全うするべく、余計なことは一切言わない。



まあ、当たり前なんだけれど……
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