浮気の定理
そう言うと、彼は後ろからそっと私を抱き締めた。



耳の後ろで彼が愛しそうな声で囁く。



「そうか……遅くなってごめん、真由……」



抱き締める力がだんだん強くなっていく。



私は彼に体を預けながら、束縛される様を楽しんでいた。



今の時間だけは、この人は私しか見ていない。



必要とされてるんだと、唯一安心できる時間だ。



エレベーターがいつもの階に止まる。



抱き寄せられながら、ゆっくりと長い廊下を歩いた。



部屋の前まで来ると、慣れた手つきでカードキーを差し込む。
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