浮気の定理
この人と知り合ったのは、半年前――



夏の暑くなり始めたばかりの、蝉のうるさい季節に私たちは出逢った。



車を車検に出してこいと父親に言われて、しぶしぶ出向いた車屋さんに、彼はいた。



父の大学時代の後輩だと言うその彼は、笑顔の素敵なおじさんだったと思う。



すごくカッコいいわけでも、色気があるわけでもないこの人の笑顔に、何故か私は惹かれたんだ。



何気なく見た左手の薬指には、しっかりと光るリング。



この歳なんだからそりゃそうかと思いながら、これで遠慮なく誘惑できると思った。
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