浮気の定理
きっと真由が顔なじみだからそうしてくれたのかもしれない。



ありがとうございますと真由を抱えながら首だけお辞儀をすると、彼は笑顔で応えてくれた。



「あぁ、それから」



ドアを開けて私たちを通してくれながら、彼がそう続ける。



「はい?」



「タクシー呼んでありますから、一階の正面玄関まで頑張ってください」



どうやら私たちのやり取りを見ている間に、タクシーを呼んでくれていたようだ。



気が利く人だなと彼を見上げると、複雑そうな笑みを浮かべて、ありがとうございました、またのお越しをお待ちしておりますと、しっかり挨拶をしてくれた。
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