浮気の定理
その日の仕事帰り――



職場から少し離れた場所にある、こ洒落た居酒屋に私たちはいた。



会社の近くだと誰かに聞かれるかもしれないという山本なりの気遣いらしい。



一応、個室でと店員にお願いして、しばらく待たされたのち、ようやく席に通された。



とりあえずビールで乾杯したあと、チビチビとつまみをつつく。



話すと決心はしたものの、どこから話していいものか迷っていた。



「で?あいつと何があったんだよ?」



黙々と食べ続けるばかりで、なかなか口を開こうとしない私にしびれを切らして、山本の方から口火を切る。
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