浮気の定理
ありさの選択②
「清水さん、大丈夫?」
そう声をかけてきたのは、飯島さんだった。
顔色の悪い私を見て心配してくれているんだと思う。
彼はいつも優しい。
つい寄りかかりたくなりそうな気持ちを奮い立たせて、大丈夫なふりをした。
「あ、大丈夫です。すみません、心配かけちゃって……貧血かもしれないですね?」
ニコッと笑顔を作ってそう言うと、自分の肩に置かれた彼の手を、さりげなく遠ざけた。
彼は特に気づくことなく、それならいいけど、無理しないでね?と、優しく笑ってレジの方に向かう。
その後ろ姿を見つめながら、あの手に触れられた日のことを思い出した。