浮気の定理
咄嗟に時計を見る。



ちょうど10時半を回ったところだ。



唇をキュッと引き結んで、頭の中でいろんなことをシミュレーションする。



飯島さんの家はLINEの会話の中で聞いて知っていた。



以前、何かの話で自宅はこの近くなんだと教えてくれたことがあったのだ。



そのマンションは自分の家からもそう遠くない。



部屋番号は知らないけれど、もしかしたらポストに名前があるかもしれない。



考えるより先に体が動いていた。



具合の悪い振りをして、菊地さんに近付いていく。



「すみません……ちょっと体調が悪くて……申し訳ないんですが早退させてもらえますか?」
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