浮気の定理
そう言って帰ろうとしたとき、彼は私を慌てたように引き止めた。



「あの、ゴホッゴホッ……もし時間あるならお茶でも飲んでってください

せっかく来てくれたんだし……」



きっと私は微妙な顔をしていたに違いない。



驚いたのと嬉しいのとダメだって思う気持ちが混じりあった、複雑な表情だったと思うから。



それでも最後の理性が私の背中を押してくる。



「いえ、お茶なんてとんでもないです!

具合悪いんですから、寝ててください

これだけ渡しに来ただけですから」



そう言ってお辞儀をしてクルリと体を反転させ帰ろうとしたのに、体が後ろに引っ張られる。



振り返ると彼の大きな手が、私の腕をしっかり掴んで引き止めていた。
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