浮気の定理
「ありがとう」



そう言って呼吸を整えながら、彼は私を部屋へと招き入れた。



ドアを押さえたまま、私が入るまで待ってくれているようだ。



「……おじゃまします」



囁くような声でそれだけ言うと、彼の横をすり抜けて、靴を脱いで部屋に入る。



後ろで玄関のドアが閉まるのを感じて、体にキュッと力が入った。



今更ながらに夫以外の男の人と二人きりという状態に緊張が走る。



「キッチンはこっちですか?」



その緊張を振り払うようにわざと明るい声でそう言いながら、部屋の奥へと進んだ。
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