浮気の定理
不自然だったかもしれない。



それでも私は彼の返事を待たずに部屋をあとにした。



本当は娘たちが帰ってくるまで、まだ時間があったけれど、早くこの場から立ち去りたかった。



彼に抱かれたいと思ってしまいそうな自分が怖くて逃げ出したのだ。



触れるだけのキスは、彼を愛しいと思わせるのに充分だった。



なにより完全に家族の存在を忘れていた自分が信じられなかった。



そしてこの日をきっかけに、私たちの仲は深まっていく。



彼と体を重ねることになる日までの、カウントダウンが始まるのだ。



それでもこの時はまだ、引き返せると思ってた。



熱に浮かされた彼との夢みたいな出来事だったんだと。
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