浮気の定理
そう言ってから、鞄を持って玄関に向かおうとしたとき、グッと腕を引っ張られた。



いつかのあの日と同じ光景。



ゆっくり振り向くと、彼が私の腕を掴んでいた手を、そっと外した。



「コーヒーでも飲んでいってください。片付けてもらった、お礼っていうか……」



細い目がさらに細くなって、引き止める言葉を探すように彼はそう言った。



決して強引ではないのに、断れないような雰囲気を彼は持ってる。



それに……引き止めてくれたことを嬉しく思っている自分もいた。
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