浮気の定理
「いや、僕はこれで失礼するよ

それじゃあ山本くん、ごゆっくり」



ひきつった笑みを浮かべながら、北川はそう言って店を後にした。



張りつめた空気が、一瞬にして弛む。



私は椅子に座り直して、ふぅ~と息を吐いた。



山本もなにも言わずに、そのまま私の隣に座る。



「ありがとね?助かった」



顔を見ないまま、俯いた状態でそう言えば、山本がこちらを向いたような気配がした。



「いいけど……どういう関係?」



「だから、父の友達」



「それだけじゃないだろ?」



察しのいい男は好きだけど、こんなときは困る。



「……」



珍しく言葉に詰まりながら、何も言うことが出来ずに、私はただ自分の手を見つめていた。
< 561 / 730 >

この作品をシェア

pagetop