浮気の定理
「涼子!」



勇のさっきよりも苛立ったような口調に、一瞬ビクリとしたけれど、それでも怯まなかった。



母親として、花を守ろうとする本能がそうさせているのかもしれない。



この子を守るためなら、不思議と怖くもなかった。



「花に手をあげないと約束してください!」



今までの自分からは有り得ないほどのパワー。



そこだけは譲れないんだと体全体で表現する。



訪れる静寂に花の小さな泣き声。



何も言わぬまま、私は花をギュッと抱き締める。



しばらく沈黙が続いた後、先に折れたのは勇だった。
< 667 / 730 >

この作品をシェア

pagetop