浮気の定理
不覚にも夜分に電話してしまった日から、何回か涼子とはこの定例会で顔を合わせている。



だけど、みんながいる手前なのか、涼子がその事に触れてくることはなかった。



「ねぇ……、浮気ってしたことある?」



少しだけ事情を知る涼子は、ピクッとその言葉に反応した。



そして哀れみを込めた瞳で、私の左手に視線を移す。



目ざとくその変化に気づいて、涼子は動揺したように目線をそこから逸らした。



そう、最近になって私は結婚指輪を外した。



そのことに雅人は気付いていないと思う。
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