浮気の定理
「お待たせいたしました」



そう言って差し出されたグラスには、氷を浮かべた水だけが入っていた。



「……なに?これ」



彼が間違えたのかと、そう聞いてみる。



「飲み過ぎてるようでしたから、お冷やをご用意させていただきました」



さっきと変わらない涼しい顔で、サラッとそう答える。



「勝手なことしないで?私はまだ飲みたいんだから」



睨み付けてそう言うと、彼はクスリと笑って、いつもとは違う表情で私を見た。



「なら、僕ももうすぐ上がりなので、一緒に飲みませんか?」
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