浮気の定理
私が頷くのを確認しながら、飯島くんと呼んでいたその人に彼女は慌てて愛想笑いを浮かべる。


「あ、じゃあ私はやることあるから、あとはよろしくね?清水さん」


何事もなかったかのようにそう言うと、彼女はそそくさとレジの方に立ち去った。


その場に取り残されたままチラリとまだすぐそこに立ったままの男性に目をやると、呆れたような顔でさっきのパートさんの姿を見送っている。



180㎝はありそうな身長に、面長の顔。



切れ長の瞳や薄い唇は、一見冷たそうに見える。



--誰なんだろう?



さっきのお局様の態度からしても、若く見えるけれど社員なのかもしれない。



少し緊張しながらも、自分の身長をコンプレックスに感じない距離に心地よさを感じて、ぼんやりとその横顔を見上げた。
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